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2016年01月14日(木)

黒沢隆さんが空気になった

黒沢隆さんに会ってきました。

ちょうどひろ子さんがいらっしゃったので、お線香をあげたいと申し上げると、「クロさん、そんなものきらいだから仏壇なんかないわよ」と言われるので、「写真も無いんですか?」「無いわ」と。仕方なく、いつものダイニングの椅子に腰を下ろすと、「アタシ料理も作らないの」と言われて、グラスに二、三個の氷を入れて、端の方に置いてあったウィスキーの瓶を2本置かれました。「今日は飲みませんよ」と、横にあった水差しの水を少し入れて飲みました。「ひろ子さんは止めたそうですね?」

 黒沢さんがご存命の最後に伺っとき、昼だというのに彼女はすっかりご酩酊で、それでも夕方まで三人で飲んで、まだ飲みに行こうという時「黒沢さん、お止めしたほうが良いんじゃあない?」と言ったことを思い出しました。しかし最近は飲んでいないという噂を聞いたので、あの酒をぴったり止めるとはさすがに意志の強い方、と思ったのですが、「アタシはねえ、止めたっていう意識はぜんぜんないのよ。飲まないだけ。これで飲むなら、病院に担ぎ込まれて心肺停止になるまで飲み続けるから、飲まないの」「おどかさないでくださいよ!」と、変な会話をしながら、近況を聞き、「ひろ子の部屋」(雑誌に発表した「個室群住居論」のとき命名した彼女の部屋)以外は一切私のものじゃあないから何にもしないの、と言われるのを聞いて見回すと、たしかに、2年経つのに、何も動いていない、何も変わっていない。変わってしまったのは、彼が空気になってしまっただけ。そしてまだウィスキー瓶の周りを漂っているだけでした。

 帰りながら「孤室群住居論だよな」と呟いてみました。


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