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M氏邸の吹き抜けの話

wh_12_21.jpgコルビジェの「マルセイユのユニテ」の吹き抜けに床が張られていた話をコラムで書きましたが、私の「M氏邸」の話。あるリフォーム会社の相談係と名乗る女性から電話がかかってきて「突然ですが、実はMさんがうちの会社にいらっしゃいまして、この部屋の吹き抜けに床を張って二層にしたいと図面と写真を見せられました。見ると先生の「M氏邸」ではないですか。私は自分の会社に背くことになりますが、イエこんなに素晴らしい空間に床を張ることなんか出来ません、とお断りしたんです」という内容でした。私は驚いてなんと言っていいか分りませんでしたが、事情を聞くと、彼女は熊本大学の建築学科出身と言います。そして「先生のお友達の木島安史先生の研究室の者です」と名乗りました。確かに木島は同級生で、建築の心が通じ合う友人でした。惜しいことに早世しました。いろいろなことが頭の中を飛来しました。こんな女性を育てたのは木島だ、あいつは偉い。また、そうか、Mさんはこの十何年の間、高い天井の吹き抜けに悩んでいたのか。そういえば或る寒い冬の日に訪ねたら、コタツで生活していたなと思い出します。床暖房をする予算が無いから吹き抜けは無理と躊躇する私に「寒くていいから、心の晴れる空間を作りたい。天井が思い切り高い抜けるような気持ちのいい空間を」と目を輝かせていた顔も思い出します。そして竣工した夜、思い通り出来た空間に二人で興奮したことを思い出します。その後私には一言も苦情や愚痴を言われませんでした。「私の説得で思い直されたようです」と彼女は言って電話を切りました。彼女が私の空間を守ってくれたのでした。しかし何年かして「M氏邸」の前を通ると、表札が変わっていました。


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