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鶯に哂われた穴掘り:奥志賀の露天風呂

別荘の風呂が小さいので増築して欲しいという友人からの依頼であった。友人の言うとおりの要求を入れて設計し、現地の工務店に見積もりを出したら600万円近い結果が出た。施主は、そんなにかかるのか?300万円でできないかと言う。初めから予算を聞いていればこうも違うことにはならなかったが、施主はたかだか2~3坪の風呂だから大したことはないと思っていたようだし、私もあまり考えないでスタートしたのが悪かった。筋さえ通っていれば、かかっただけ出すだろうくらいに軽く考えていた。一般に施主は予算を言いたがらないものだ。先に予算を言うと、安く出来るものもその予算に合わせて予算額いっぱいに使われるのではないかと思うようで、こちらに先に言わせようとする。それが施主一般の心理で皆そうする。しかしこの友人はそんなせこい奴ではなく、単に無頓着で大らかだったのだ。今回は相手が友人だし小額だから勿論設計契約も結ばず初めてしまった。しかしなんとか300万円でできないかと言う。私もなんとしても実現しようと思った。業のようなものだ。だいたい既存の浴室は二階の高さにあり、それに揃えなければならないから地上4メートルになる。奥志賀は豪雪地帯だから柔な柱ではもたないし基礎も凍結深度まで深く掘らねばならない。いい条件は一つも無い。そこで安くする基本として、業種を出来るだけ減らし且つ現場作業を極力少なくするようにした。しかしどうやっても原設計では無理なので、思い切って発想を変え、サッシは一切やめて露天風呂にすることを提案し、施主に了解してもらった。基礎を減らすためには一本柱が良い。大工工事は手間(時間)がかかるから全て鉄骨として、現場で半日で組み立てて、クレーンで吊って設置するという段取りをとった。更に、私の設計のスタッフと工務店の若い担当の二人(実はこの二人は私の大学院のOB)それに私との計4人で基礎を作りペンキも塗るという「無償」の工事を加えなければできるものではなかった。基礎は一本柱とはいえ、深さ1メートルの穴を掘らなければならない。最近の若者は、パソコンのマウスより重いものを持ったことが無いような弱い腕だから、スコップを持つのは過酷だったに違いない。真夏だったが近くで鶯が声高らかに鳴いている。なぜそんなことまでするんだと嘲笑っているようにも聞こえた。あの声はいまだに耳から離れない。しかし、そうまでしてやるのは、この友人は私の建築の実に良き理解者で、これまでも良い建築を設計するチャンスをもらっている。今回もきっといい作品になると思っていたし、スタッフもそれを信じてくれていたからだ。事実、傑作ができた。


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